定置網に入っていた大物のタイを手にして笑顔を見せるオーナーたち。2013 |
漁師が手繰る網の中に、ひときわ大きなピンク色の魚影が輝く。
3・5キロほどのタイだ。
ひしめく小さなアジの間からは、コノシロやイカ、カワハギの姿も見え隠れする。
「やった。大漁だ」。
身を乗り出していた乗客から歓声が上がった。
熊本県天草市有明町の大浦地区は有明海に面した約250世帯の集落。
65歳以上の高齢化率は40%近い。
過疎化が進む集落に活気を呼び込んでいるのが、住民でつくる大浦地区振興会が昨年始めた「ひと網オーナー制度」だ。
1万円を払うと、定置網を1回引き上げて取れた魚を全部持ち帰ることができる。
1日4組限定で、引き上げに同行するのが条件。
期間は4~7月で、8~9月は底引き網(2万9900円)に切り替わる。
昨年は、定置網と底引き網を合わせて予想以上の延べ270組がオーナーになった。
ことしは、それを上回る勢いだ。
ただ、何がどれだけ取れるかは運次第。
用意したクーラーボックスに入りきれないことがあれば、不漁もある。
「スリルも含めて楽しんで」と漁師の松本仁(まつもと・ひとし)さん(53)。
県外からのオーナーが地元の民宿や温泉施設を利用するなど、経済効果も広がる。
漁師にとっては、魚の価格に左右されない安定収入につながっている。
「よそから来た人たちに喜んでもらえるので、住民が大浦での暮らしに誇りを持つようになった」と、同地区振興会の事務局を務める市職員の丸田克治(まるた・かつじ)さん(40)。
「住民が生き生きと輝き始めたことこそ、最大の成果です」
*温かい歓迎も魅力
大浦地区振興会は「ひと網」の前から「ミカンの木」と「タコつぼ」のオーナー制度を実施しており、どれも大人気。リピーターが多いのは、獲物はもちろん、住民の温かい歓迎も魅力だからだろう。“大浦ファン”は確実に増えている。
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