「七島イ」を1本ずつ手に取り、半自動織機で畳表を編む淵野聡さん |
廃業していた「 七島 (しちとう) イ」の作業小屋に若草のような香りがよみがえった。
伊予灘を望む大分県北部の 国東 (くにさき) 市。
2013年に就農した七島イの最年少農家、 淵野聡 (ふちの・さとし) さん(32)は畳表を初めて織る喜びをかみしめ、消滅の危機にある伝統産業の未来に「希望はある」と話した。
畳表に使われるイグサに似た別種の多年草だが、丈夫さで勝る。
「くにさき 七島藺 (しちとうい) 振興会」によると、大分県は最盛期に年間約500万枚の畳表を出荷する日本一の産地だった。
1株ずつ苦労して手植えした思い出や、砂浜で日干ししたものを踏み、しかられた記憶を持つ高齢者も多い。
生産の機械化の遅れなどでイグサに押され、担い手は高齢化した。
出荷数は3千枚弱へ落ち込み、農家は5戸と2法人だけ。
江戸時代から続く国内最後の産地を守ろうと、農家らは10年に行政と振興会を立ち上げた。
まず取り組んだのが工芸品生産の復活だ。
技術を持つ90代の大先輩らから学び、23人の工芸士が生まれた。
渦巻き状に編んだ敷物「円座」などは全国区の観光地、湯布院で店頭に並び、工芸士から本職となる畳表織りを目指す人も出てきた。
追い風も吹く。
昨年5月に国東半島宇佐地域が世界農業遺産に認定され、七島イは伝統作物としての評価を得た。
今秋公開の直木賞受賞作を映画化した「 蜩 (ひぐらし) ノ記」でも作中に登場する。
斜陽化に伴い「貧乏草」とやゆされたこともあったが、今では本物志向の高まりから七島イの畳は半畳3万円前後で売れるという。
工芸士から畳表織りへ進んだ 清原玲子 (きよはら・れいこ) さん(56)は「宝の草にしたい」と意気込む。関係者の表情は皆明るい。
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